「超速」車いすランナーの秘密
はや1年たったかと、暦を見て東京五輪・パラリンピックの記憶がよみがえりました。なかでもパラ大会・陸上男子車いすのマルセル・フグ選手(スイス)の姿は今も鮮烈です。
800、1500、5000メートルとマラソンの4種目に出場。すべて金メダルを獲得しました。第一人者にふさわしい、圧倒的なまでの速さと強さでした。
4人兄弟の末っ子として生まれ、脊椎(せきつい)に先天的な問題があり、車いすで育ちました。興味深いのはここからの環境です。10歳でジュニアのレースに参加。そこでコーチと出会い、才能を見いだされて国立のスポーツ学校へ進学。本格的トレーニングを積みました。
スイスの教育制度は州ごとに違いますが、憲法でスポーツ教育が奨励され、国立の専門校があります。フグ選手の学校では仲間に車いすの選手はいなかったけれど、競技の取り組みやプロ選手へのキャリア形成など多くを学んだそうです。パラ選手を認め、受け入れる土壌を感じます。
運動や身体能力で五輪選手を凌駕(りょうが)するパラ選手は珍しくありません。日常的に超えるべき壁が数多くあるからでしょう。例えば視覚障害があっても、補うように聴力や認知能力に秀でた選手が数多くいます。
かつて取材した韓国の国立スポーツセンターでは一般の障害者にも開放。各種の医科学データを計測し、その人に合う競技を紹介する活動に感心しました。
国内の環境は、練習場の確保や指導者育成など発展途上ですが、その整備と研究からは健常者が学ぶことも多いように思います。
朝日新聞論説委員 西山良太郎