自主練する子から夢見る五輪の原点
宮城県気仙沼市で車を走らせていた時、道路脇の住宅前で何かに打ち込む親子らしき姿が目に留まりました。すぐ先は東日本大震災で津波に襲われた地です。
小さな子どもが手にするのは剣。フェンシングの自主練習のようです。
気仙沼市は同競技が盛んな地です。今の協会トップも地元出身の人で、日本のボイコットで幻となったモスクワ五輪の代表でした。
国内ではマイナーな競技ですが、近年、急速に力をつけ、2021年の東京五輪では金メダルをとりました。長年にわたる普及・振興策と地道な努力が実った瞬間でした。そして今夏はパリ五輪です。
前回の東京五輪はコロナ禍で1年延期のうえ、閉幕後は汚職事件に見舞われました。そして札幌の冬季五輪誘致が遠のきました。
そもそも前回は震災からの「復興五輪」を標ひょうぼう榜して招致しました。被災地のとまどいやコロナ禍の移動制限で、テーマはかすんでしまいました。
そしてパリ五輪は「地球環境」「持続可能性」を掲げます。開会式の舞台となるセーヌ川の水質改善に地元はやっきです。対策と成果をアピールする政治的なにおいがまた漂います。
巨大な大会にテーマは必要なのかもしれません。でも、主役はあくまでもプレーする選手と競技を楽しむ人たちです。そんな原点は国民スポーツ大会(旧国体)も同じでしょう。
自主練に励む子どもの姿から、スポーツの祭典の原点と将来を夢見ました。
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取材拠点をこのほど東京都内に移しました。
朝日新聞気仙沼支局長 山浦 正敬