世界ランク210位の逆襲
その喜びがどれほど特別だったのか。調べたくなりました。サッカーで世界ランクが最も低い210位のサンマリノが9月、リヒテンシュタインを破って公式戦初勝利をあげた、という記事でした。
サンマリノはイタリア半島中部にあり、人口は約3万3千人で、面積は61.2平方㌔と東京の世田谷区ほどしかありません。
その歴史は長く、4世紀初頭、ローマ皇帝によるキリスト教徒迫害を逃れた石工が信徒を集めて共同体を作ったそうです。
以来、山間部の地形を生かして外敵の侵入にあらがい、知恵と交渉術で1700年間一度も戦争をせずに、自由と独立を堅持してきました。現存する世界最古の共和国とされます。
この国にサッカーの代表が組織されたのは1986年のこと。観光以外には大きな産業がない国で、選手の大半はいまも他に仕事を持つアマチュアです。欧州の強豪と対等に戦うのは容易ではありません。
90年からW杯の予選や欧州選手権などの公式戦に参戦したものの、白星は遠いまま。2004年に同じリヒテンシュタインとの親善試合に勝った後は再び、歓喜とは無縁の日々でした。
それでも、ひたむきに球を追う選手に魅せられるのでしょう。熱狂的サポーター集団「決して喜びのない旅団」や、国内外の判官びいきのファンがこの試合を見守ったそうです。結果は53分に奪った得点を守り切っての1-0でした。
チームの成長は一歩ずつでしょうが、サポーター集団の名前変更は遠くない。そんな気がします。
朝日新聞論説委員 西山良太郎