負け続けた馬の物語
競馬に興味はなくとも、ハルウララという競走馬は記憶にあるでしょうか。地方競馬で113回走って0勝にもかかわらず人気を集め、「負け組の星」と呼ばれた牝馬(ひんば)でした。
1998年11月に高知競馬でデビュー。以来、負けてもひるむことなく走り続け、03年夏にその連敗が90に届く頃、一躍脚光を集めてブームが動き始めます。
そのピークは04年3月。
中央競馬を代表する武豊騎手が、依頼に応じて騎乗することに。人気は単勝1.8倍とダントツで、施設拡充後初の満員となる1万3千人が来場、報道関係者は400人を数えました。
結果は11頭中10着で106連敗でしたが、馬券の売り上げは当時の高知競馬の最高を記録。その熱狂ぶりに武騎手は「こんなに注目され、ある意味、名馬だと思います」と感想を残しました。この年がハルウララの現役の最後でした。
この物語には背景がありました。当時、地方競馬の多くが経営不振で、高知競馬も03年も赤字なら廃止が決まっていました。そこで関わる人たちが着目し、知恵を絞ったのが負け続ける馬を応援することでした。
それから20年余り。いま高知競馬の売り上げは約25倍も増え、昨年は999億円と1千億円の大台に迫るまでに。好景気を牽引(けんいん)しているのは、ナイター開催に加え、05年に開発されたインターネット投票の導入だそうです。タイミングというか、馬と人と社会の巡り合わせの妙を感じます。
ハルウララは9月、競走馬の余生を支援する千葉の牧場で、29年間の天寿を全うしたそうです。
朝日新聞論説委員 西山良太郎
