寝ても覚めてもすぽーっ!(引退の花道は)

引退の花道は

引退をめぐる風景は十人十色、競技や選手によって様々です。かつて「こんな方法もあるのか」と驚いたことを思い出しました。
 
テニスの4大大会で単複計9勝の名手ステファン・エドベリは1995年、世界ランクのトップ10から外れ「もう優勝の力はない。来季が最後」と宣言。翌年は各地の大会で拍手を浴び続け、終章となる全米オープンもファンの大声援を受けて快進撃。4年ぶりに8強を果たしました。
 
繰り返される地鳴りのような拍手と好プレー。選手とファンの相乗効果が生むテニスの芳醇さに圧倒される思いでした。
 
四半世紀前の記憶がよみがえったのは10月の白鵬の引退会見でした。秋場所を休場した横綱は7月の名古屋場所中に引退を親方へ伝えたと打ち明けました。6場所連続休場から戻った名古屋場所の開幕前には、意思を固めていたことをうかがわせる「告白」でした。
 
その場所は全勝優勝したものの、張り手やヒジ打ちまがいの攻撃を繰り返し、14日目は俵を背にした異様な立ち合いをみせ、千秋楽には鬼の形相でガッツポーズもありました。
 
横綱らしからぬ振る舞いは批判を浴びましたが、そこに彼の言葉を重ねれば、勝つことでしか責任を果たせない横綱の切なさも浮かんできます。引退を公言すれば土俵には上がれないのが角界の不文律です。
 
先発して打者1人で降板した西武・松坂大輔投手の引退試合も、故障による不完全燃焼を感じました。
 
難しいけれど、もう一度エドベリのような引退に立ち会えたらと夢想します。

朝日新聞論説委員 西山良太郎