高校野球連合チームの化学反応
夏の高校野球は甲子園だけではありません。軟式ボールを使う野球部も毎年、全国から代表が集まって頂点を目指します。
夏を前にした埼玉県の春の大会を制したのは、県立大宮ろう学園・浦和ルーテル学院・慶応義塾志木です。単独では選手が足りず、大会2カ月前に結成した3校連合チームです。
聴覚障害の特別支援学校から東京六大学の系列校まで多彩な組み合わせ。しかし、若者は不思議です。化学反応が起きたのです。
守備も攻撃もコミュニケーションが重要です。球児たちは口を大きく動かして会話します。唇の動きで意思が伝わると知ります。プレーの指示も大きな身ぶりを心がけます。
好プレーに何げなくやってきた「いいね」の手ぶりが、真逆の意味を持つことも学びます。握り拳で親指を立てながら胸の前に突き出すポーズです。手話では「だめ」の表現です。
同僚記者の取材に球児はこう話しました。
「耳が聞こえないからといって、特別意識はしなかった」
連合チームのモットーは「あきらめない野球」。県大会では、硬式野球でも名の知れた浦和実業や花咲徳栄を破って堂々の初優勝を飾りました。
グラウンドでは、監督の指示を手話を使える教諭が訳しました。残念ながら次の関東大会では初戦敗退でしたが、好機にベンチ内はお祭り騒ぎでした。
3校連合は春限定でした。でも「これからも仲間で」の教諭の声に、応援に来た家族からも大きな拍手がわいたそうです。
朝日新聞さいたま総局長 山浦 正敬