苦手な主催者あいさつに思う
ホールの舞台で一礼して顔を上げると、客席からの多くの視線が目に飛び込んでくる。覚えたはずのあいさつがぐちゃぐちゃになっていく。降壇して反省する。何回繰り返したら慣れるのでしょうか。
芸術の秋です。朝日新聞社が催す行事も、コロナ禍とはいえ徐々に元に戻りつつあります。それに伴い主催者として求められるあいさつも復活してきました。
日本の新聞社は多くのスポーツや文化の行事を企画しています。世界的には珍しいそうです。朝日新聞社も今夏で104回を数えた「夏の甲子園」だけでなく、合唱や吹奏楽の大会を催しています。歴史は戦前にさかのぼります。
社内の記録によると、関西で吹奏楽団体が結成されたのは85年前です。朝日新聞社の提唱によるスタートで、2年後には全国組織が発足し、1940年に新聞社と共催で第1回の全国コンクールが開かれました。戦争による長い中断を乗り越えて今にいたります。
一方、合唱の全国組織発足は終戦後でした。48年には今に続く全国コンクールを新聞社と共催します。社内記録では「焼野原の中から各地に組織化の動き……」と表現しています。
ところで11月3日は「文化の日」です。終戦翌年に日本国憲法を公布した日でもあります。祝日に決めた趣旨は「自由と平和を愛し、文化をすすめる」で、平和への思いが伝わります。
さて、今の私に戻ります。歴史を再認識し、あいさつは背筋を伸ばして臨みます。たとえ緊張で頭が真っ白になっても、です。
朝日新聞さいたま総局長 山浦 正敬