キング・オブ・スポーツの憂鬱
選手の万能性を競う近代5種を「キング・オブ・スポーツ」と呼ぶことがあります。近代五輪を提唱したクーベルタンが考案したことでも知られています。
水泳、フェンシング、馬術、射撃、ランニングを1人でこなす過酷な競技ですが、その関心は必ずしも高いとは言えません。今夏の東京五輪では強豪ドイツチームの指導者が追放処分を受けましたが、日本では話題になりませんでした。
「事件」は馬術で起きました。ドイツの女子選手の馬が障害の直前で急停止。コーチは選手に馬をもっと激しくムチでたたき障害を跳ばせるよう指示し、自身も柵の外から拳で馬を殴りました。この行為を動物虐待だとする非難と議論も巻き起こりました。
2人の振る舞いに弁護の余地はありませんが、悩ましさはあります。馬は抽選で貸与され、初対面の選手が事前に意思疎通を図る時間は20分だけ。しかも当該馬は別の選手でも急停止を起こしていました。
そもそもこの競技は射撃や馬術を含む特殊性から競技人口が増えず、五輪からの削減候補として長年議論の的になってきました。
かつては1日1種目の5日間競技でしたが、まとめて1日に短縮。いまでは射撃とランニングも掛け合わせた形に変更されました。東京五輪ではフェンシングを2日間で実施するなど、めまぐるしいほどの改革のひずみが、事件の背景と無関係には思えません。
五輪の採否と競技の持続可能性をどうとらえるか。マイナー競技が直面する課題の大きさには、考え込んでしまいます。
朝日新聞論説委員 西山良太郎