モンスター・スタジアムの秘密
福井県営陸上競技場は収容1万6千人と小ぶりですが、ファンには知られた存在です。2017年に陸上男子100㍍の桐生祥秀選手が日本選手初の9秒台となる9秒98を出しました。
これにちなんだ「9・98スタジアム」の愛称とは別に、「モンスター・スタジアム」の異名もあります。
実は、ここで生まれた日本記録は一つではありません。2年後の「アスリート・ナイト・ゲームズ・イン福井」第1回大会で、男子走り幅跳びなど3種目でタイを含め4回も日本記録のアナウンス。昨年は男子砲丸投げの奥村仁志選手が、今年は男子110㍍障害の村竹ラシッド選手が日本新をマークしました。
好記録の最大の演出者は風です。スプリント系種目は追い風2㍍を越すと参考記録です。元々地形的に夏は追い風が吹きますが、17年に大型映像装置を設置すると流れが安定。2㍍以下に収まることが増え、記録ラッシュが始まりました。
しかし、風だけが理由ではありません。通常のスタンド席に加え、フィールド内にも観客席を設置。競技の一瞬一瞬を共有できるよう、手が選手に触れそうな距離まで観客を招き入れ、DJのメリハリの効いた案内と音楽との相乗効果で、会場を一体化させる工夫が印象的です。
主催者はクラウドファンディングの活用で運営資金を集め、多額ではなくとも成績上位者への賞金も設けています。そんな試みの積み重ねが、選手を後押ししているように見えます。
地域の手作りによる競技会として、一つの理想郷ではないでしょうか。
朝日新聞論説委員 西山良太郎
