寝ても覚めてもすぽーっ!(個が導く強さの羅針盤)

個が導く強さの羅針盤

欧州サッカーの2025年シーズンは、スウェーデンリーグが大きな関心を集めました。人口1500人ほどの村に本拠をおくクラブ、ミャルビーが創設86年で初優勝したからです。

村はバルト海に面し、漁業や農業で生計をたてる人がほとんど。地元の報道では、選手は他に仕事を持つ兼業も多く、クラブは16年には4部落ちと破産の危機だったとか。地元出身の実業家がてこ入れして持ち直したとはいえ、運営規模は上位の8分の1程度。戦術面を担うコーチは就任2年目で過去にトップレベルを指導した経験もないそうです。

そんなクラブがなぜ勝てたのでしょうか。クラブの説明はこうです。

「選手の個性をていねいに見極めて発掘し、戦術を教えこむのではなく、個々の能力を育てる」。実は、戦術担当コーチは視覚認知の博士号をもつ研究者だそうです。球を受ける前に周囲の情報を集め、素早く動く。脳を働かせるスキャニングで判断と動きの精度を向上させてきたそうです。

連想したのは日本の指導者の言葉でした。J1鹿島の鬼木監督は昨年12月、名門クラブを9年ぶりに王座へ導きました。川崎時代に4度優勝の実績がありますが、「確実に勝てるマネジメントなど存在しない」と断言し、「でも全員が成長することはできる」と表現。シーズンを通して一人ひとりが成長するよう根気強く求め続けました。

チームや選手を取り巻く環境は違いますが、選手に向き合い、個を伸ばすことに精魂を傾ける指導の肝に改めて共感しました。

朝日新聞論説委員 西山良太郎