名物オーナーの退場
米球界が驚く「事件」は1977年5月11日のことでした。16連敗中のアトランタ・ブレーブスのベンチに、球団のオーナーがユニホーム姿で現れました。
不振に業を煮やし監督に休養を命令。「俺の方がうまくやれる」と乗り込んだオーナーにコミッショナーは規則違反を宣告。騒動は1試合で終わりました。
最高権限者の「ご乱行」として記憶した人も多いはず。けれど、断罪には躊躇(ちゅうちょ)もあります。
当時のオーナーはテッド・ターナー氏。その後ニュース専門局CNNを創設する風雲児です。業界を超えた辣腕(らつわん)で弱小球団をリーグの強豪に変え、東西冷戦で五輪ボイコットが続くと、もう一つの五輪と呼ばれた「グッドウィルゲームズ」を始めました。
ルールは必要に応じて変えるか、作ればいい。現実を見据えた破壊と創造は通底していました。
少々乱暴な連想ですが、日本球界ではオリックス・バファローズのオーナー、宮内義彦氏でしょうか。
リース業からの参入は球界の保守派から批判と冷笑を浴びました。何より、政府が設置した会議の議長などを歴任し、省庁や産業構造の改革と規制緩和を迫った姿は記憶に残ります。
財界随一の野球通といわれるオーナーも12球団中最高齢、最長期間に。
25年ぶりの優勝で「区切りができた」と今季での勇退を表明しました。最後の個性派オーナーかもしれません。
あえて「失敗」を一つ。
球界再編で旗を振った1リーグ化は選手とファンの抵抗で頓挫しました。歴史はどう評価するでしょうか。
朝日新聞論説委員 西山良太郎